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令和5年度司法試験刑訴 その3(設問2)

Yamamoto

【実況見分調書①】について

 甲の弁護人は、【実況見分調書①】について不同意の証拠意見を述べていますので(326条1項)、【実況見分調書①】が伝聞証拠に当たる場合には、伝聞例外の要件を満たさない限り、証拠能力が認められないことになります。

 【実況見分調書①】は、(a)本体部分(実況見分調書自体)、(b)複数枚の写真、(c)写真下の説明部分とで構成されていますので、それぞれ分析的に検討かつ論じていく必要があります。

まず、(a)本体部分(実況見分調書自体)については、立証趣旨がどうであれ、Qが認識・見分した内容どおりに記載されていなければ、およそ証拠価値を持ちませんので、Qの供述内容が真実であることが求められます。

そのため、(a)本体部分(実況見分調書自体)は伝聞証拠に当たります。

伝聞例外としては、判例・通説上、321条3項の「書面」に当たるとされています。

321条3項が検証調書について比較的緩やかな要件の下で証拠能力を認めた趣旨は、検証が専門的訓練を受けた捜査官が行う技術的事項で、恣意の入る余地が少なく、またその結果を書面で報告した方が、口頭で供述するよりも正確かつ詳細であるという点にあり、その趣旨は、検証と活動内容に違いがない実況見分にも妥当すると理解されています。

したがって、(a)本体部分(実況見分調書自体)は、Qによる真正作成供述があれば、321条3項により証拠能力が認められます。

次に、(b)複数枚の写真と(c)写真下の説明部分について検討します。

検察官は立証趣旨を「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」としています。かかる立証趣旨に従えば、(b)複数枚の写真、(c)写真下の説明部分は、本体部分(実況見分調書自体)と一体のものとして、321条3項の要件を充足すれば、証拠能力が認められることになります。

もっとも、検察官の立証趣旨をそのままそのまま要証事実としてよいかどうかについて検討する必要があります。

たしかに、当事者主義の下では、裁判所は当事者が設定した立証趣旨に拘束されるのが原則ですが、立証趣旨に拘束されると当該証拠がおよそ無意味になる場合には、例外的に裁判所は実質的な要証事実を考慮すべきと考えられています。最決平成17年9月27日【百選83(第10版)】も同様の理解に立つものと考えられています。

本問では、甲は、V方の玄関ドアの錠をピッキング用具で解錠して室内に侵入したと供述しています。そして、V方の玄関ドアの錠が特殊な錠であったことも考えると、甲宅から押収されたピッキング用具を用いて、実際に甲が供述した方法・手順を踏めば解錠することが可能かどうかを確認することは、甲の犯人性を確認する上でも重要といえます。このように、犯行に一定程度の困難さを伴う場合には、被疑者が供述する犯行が物理的・客観的に可能といえるかどうかを確認することに意味があるといえ、検察官の主張する立証趣旨に拘束されたとしても、実況見分調書は証拠価値を持つといえます。甲は当初は自白していたものの、黙秘に転じていますので、なおのこと証拠価値を有するといえます。

したがって、「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」という立証趣旨をそのまま要証事実と捉えて良いことになります。

このように考えると、「このように、ピッキング用具を鍵穴に入れてこうして動かしていくと解錠できます。」「このように解錠できました。」という(c)写真下の甲の説明部分は、いわゆる現場指示として、その内容の真実性は問題となりません。

また、(b)複数枚の写真部分は、甲が解錠している状況を連続撮影したものですが、写真のうち、甲の挙動を映す部分については甲の説明(前述の(c))を補充するものとして、解錠状況を映す部分については実況見分そのものとして、いずれも、内容の真実性は問題となりません。

以上より、(b)複数枚の写真、(c)写真下の説明部分はいずれも、(a)本体部分(実況見分調書自体)と一体のものとして証拠能力が認められます

よって、【実況見分調書①】は、Qによる真正作成供述があれば、321条3項により証拠能力が認められます。

【実況見分調書②】について

【実況見分調書②】についても、甲の弁護人が不同意の証拠意見を述べていますので、これが伝聞証拠に当たる場合には、原則として証拠能力が認められないことになります。

 【実況見分調書②】も、(a)本体部分(実況見分調書自体)、(b)写真1枚、(c)写真下の説明部分とで構成されていますので、分析的に検討していく必要があります。

まず、(a)本体部分(実況見分調書自体)については、【実況見分調書①】と同様、伝聞証拠に当たりますが、検察官Rによる真正作成供述があれば、321条3項により証拠能力が認められます。

次に、(b)写真1枚と(c)写真下の説明部分について検討します。

検察官は立証趣旨を「被害再現状況」としています。「被害再現状況」という立証趣旨は、「被害状況」(伝聞)という立証趣旨の場合と異なり、あくまで再現をした際の状況を立証するものとして、非伝聞を意味しています。

この立証趣旨にそのまま従うならば、(b)写真1枚と(c)写真下の説明部分は、本体部分(実況見分調書自体)と一体のものとして、321条3項の要件を充足すれば、証拠能力が認められることになりますが、既に見てきたように、実質的な要証事実の検討を要します。

本問では、ゴルフクラブで頭部を殴ることは、一般人であれば誰でも可能といえ、犯行の客観的・物理的な可能性を立証することに意味があるとはいえません。しかも、V宅内で行うのであればともかく、V宅内とは種々の条件が異なる検察庁で行っている点でも、そういえます。この点で、痴漢事件の再現を電車内ではなく、警察署内で行った事案である上記平成17年判例と類似します。電車内で再現を行うのであれば、被疑者と被害者の位置関係などから、犯行の客観的・物理的な可能性を立証することに意味がある場合が出てきますが、電車内と条件の異なる警察署内でそれをやっても意味を持たないという事案でした。

このように考えると、検察官は立証趣旨を「被害再現状況」としていますが、これに拘束されると【実況見分調書②】はおよそ無意味であり、その再現どおりに甲が犯行を行ったことの立証に用いる場合に初めて意味を持つといえます。

そうすると、【実況見分調書②】の実質的な要証事実は「被害状況」と捉えるべきであり、(b)写真1枚と(c)写真下の説明部分については、321条3項とは別に伝聞例外の要件を満たす必要があります。

供述者は被告人以外の者であり、【実況見分調書②】の作成主体は検察官ですので、321条1項2号の要件が問題となります。そして、相反供述ではなく、Vが死亡している事情からして、321条1項2号前段の要件(供述不能、署名・押印)充足が問題となります。

まず、Vが死亡しているため、2号前段の供述不能事由を満たします。

そして、(b)写真1枚については、その撮影、現像等の記録過程が機械的操作によって行われる点で伝聞性はなく、Vの署名・押印は不要とされますので、2号要件を充足します。

一方、(c)写真下の説明部分については、Vの署名・押印がないため、要件を充足しないことになります。

以上からすれば、【実況見分調書②】については、Rによる真正作成供述がある場合には、(a)本体部分(実況見分調書自体)と(b)写真1枚については証拠能力が認められるものの、(c)写真下の説明部分については証拠能力が認められないことになります。

なお、真正作成供述に際して、Rにより「Vが供述したとおりに説明部分を記載した」との供述があれば、(c)写真下の説明部分について、署名・押印がないという瑕疵が治癒される余地があるかもしれません(私見)。ただし、平成17年判例は、「再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要」と述べており、供述録取部分については、321条1項2号ないし3号所定の署名・押印要件を厳に要求する趣旨であると読むのが素直かもしれません。

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