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令和7年度司法試験 刑訴(その1)設問1

Yamamoto

設問1について

逮捕に伴う捜索差押え(220条1項2号)に関する問題でした。やや応用的な問題も含まれており、良い問題だったと思います。

下線部①の行為の適法性について

本問では、捜索差押許可状(憲法35条、法218条1項)は取得できておらず、甲を通常逮捕した流れの中で、下線部①の和室内の捜索が行われています。

ですので、逮捕に伴う捜索(220条1項2号)として許容されるかが問題となってきます。

なお、設問では問われていませんが、PらがX方に入った行為は、本来なら220条1項1号の適用場面であり(ただし、甲を追跡中であると評価できれば、220条1項1号によるまでもなく適法といえます)、Xの許可がない場合であっても、X方に令状なく入ることができます。ただ、本問では、PらがX方に入ることをXが了承していますので、問題なく適法な入室行為といえます。

では、220条1項2号の要件を見ていきます。

まず、「逮捕する場合」(220条1項柱書)の解釈に関し、220条1項2号の根拠につき、緊急処分説と合理説・相当説の争いがあります。

判例・実務の立場であろう(?)とされる合理説・相当説によると、「逮捕する場合」とは、逮捕行為が開始されている限り、逮捕の前後を意味し、逮捕直後に限定されません。そうすると、本問でも、逮捕から約5分後に行われた下線部①の和室内の捜索は「逮捕する場合」といえます。

なお、緊急処分説に立った場合には、「逮捕する場合」とは逮捕の直前直後を指すことになります。同説は、220条1項2号の根拠を、被逮捕者による証拠破壊を防止する緊急の必要性があることに求めますので、被疑者が手錠をかけられるなど、被疑者による証拠破壊の危険性がなくなった時点においては、「逮捕する場合」といえなくなります。ただ、本問では、甲は手錠をかけられていないので、緊急処分説に立った場合でも、なお「逮捕する場合」に当たりそうです。

次に、「逮捕の現場」要件を見ていきます。

合理説・相当説によると、「逮捕の現場」とは、逮捕した地点を基準として、同一管理権が及ぶ範囲内をいうと考えられています。

本問では、甲はX方のリビングで逮捕されているので、逮捕した地点を基準として同一管理権が及ぶ範囲は、X方のリビングは当然として、6畳の洋室や6畳の和室も含まれるといえそうです。

たしかに、リビングと和室の間には扉が設置されていますが、甲が5日間居候をしているという事情によって、和室に対するXの管理権が排除されることはないでしょう。

その上で、逮捕に伴う捜索の場面では、222条1項本文が準用する102条の要件に注意する必要があります。

本問では、Xは被疑者ではないため、X方内の和室を捜索するためには、102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」といえる必要があります。

本問において「押収すべき物」のトップバッターは、Pらの意図からしても、「甲の携帯電話」といえます。本件住居侵入・窃盗事件は、少なくとも男性3名の関与が疑われる共犯事件であり、防犯カメラ映像から明らかとなっている通話記録からして、甲の携帯電話からは、共謀を基礎付けるやりとりなどが判明する可能性も高く、被疑事実に関連する物件として「押収すべき物」といえそうです。

そして、甲は逮捕直前には携帯電話を手に持っていたのに、逮捕した際の身体着衣には携帯電話はないこと、甲が居候に際して基本的に和室のみを使用してきたこと、甲が携帯電話の在りかを答えようとしない態度などに鑑みれば、和室内には、Pらの主観どおり、携帯電話を含め、本件住居侵入・窃盗事件に関係する証拠物が存在する蓋然性が高いといえます。

そうすると、102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」といえます。

以上より、下線部①の和室内の捜索は適法といえます。

下線部②の行為の適法性について

下線部②は、Yの上着ポケットの捜索ですが、これも逮捕に伴う捜索(220条1項2号)として許容されるかが問題となります。

まず、合理説・相当説からは、逮捕から約15分後に行われた下線部②の行為は、「逮捕する場合」にあたります。また、Yはリビングにいますので、「逮捕の現場」における捜索といえそうです。

もっとも、Yも被疑者以外の者ですので、222条1項本文・102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」の要件が問題となります。

ただ、ここでは、捜索を許容する要件として、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」があれば足りるのかという論点があります。

まず、222条1項本文・102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」という要件を充足すれば足りるとする見解(以下、「A説」)があります。

一方で、『押収すべき物を身体に隠匿している高度の蓋然性』が認められる場合に限って、捜索に必要な付随的措置ないし必要な処分(222条1項・111条1項)として第三者の身体を捜索することができるとする見解(以下、「B説」)があります。

B説は、身体に対するプライバシーは、場所や物に対するそれよりも要保護性が高いという点を重視し、要件を厳格に設定しようという理解といえます(ただし、古江教授や堀江教授は、身体のみならず、所持品の場合であっても、同様に厳格な要件を設定する立場です)。

たしかに身体に対するプライバシーは、場所や物に対するプライバシーよりも要保護性が高いといえますので、問題意識自体は理解できます。

ただ、条文に素直に考えると、102条2項は、「場所」と「物」と「身体」を並列的に列挙した上で、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」という要件を定めています。そうすると、条文上は、A説に分がありそうです。

A説に沿って検討すると、甲の携帯電話がリビングの捜索と和室の捜索によっても発見されておらず、甲が洋室を使用していなさそう(甲が使用してきた場所が基本的に和室であり、食事や雑談の際にリビングを使うことはあったが、洋室を使った事情は見受けられない)です。そして、甲の身体着衣にもないとなれば、甲の交際関係にあるYが甲をかばうか、甲から依頼を受けて甲の期待電話を着衣内に隠匿した可能性が高いといえます。また、現に、YはPから携帯電話の存りかを尋ねられたのに対し、甲を一べつしてうつむいて何も答えないまま、上着のポケット内に手を入れ、中を探るような動きをしています。

そうすると、Yの着衣内に「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」といえそうです。

以上より、下線部②の捜索も適法といえます。

なお、本問の事情からすれば、B説に立った場合でも、『押収すべき物を身体に隠匿している高度の蓋然性』が認められ、適法となりそうです。

下線部③の行為の適法性について

下線部③は、J交番まで場所を移動した上で行われた身体の捜索です。

見た瞬間に、和光大内ゲバ事件判例(最決平成8年1月29日【百選27(第11版)】)を想起すべきでしょう。

同判例は、ⓐ被疑者の名誉等を害し、ⓑ被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又はⓒ現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができるとしています。

実施に適する最寄りの場所は、「逮捕の現場」とはいえないとして、判例に対しては、強制処分法定主義に反するという批判も強いところですが、ひとまずこの基準に沿って検討すれば足りる(文句言われることはない)でしょう。

本問では、通行人の1人が携帯電話のカメラ機能を使って録画しているため、その場で捜索を実施することは、ⓐ被疑者の名誉を害する事情があるといえます。また、乙が暴れて抵抗しているため、ⓑ被疑者の抵抗による混乱が生じるおそれもありそうです。ⓒの要件は本問ではよくわかりませんが、ⓐⓑⓒのいずれかの要件を充足すれば足りますので、ⓐとⓑの要件を満たす本問では、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないといえます。

ただ、問題は、J交番が「差押えの実施に適する最寄りの場所」といえるかどうかです。本問では、警察車両を停めていた駐車場において、捜索を実施すべきではないか(つまり、「最寄りの場所」=駐車場ではないか)が問題です。

駐車場では、通行人らがPらに付いてくることはなく、乙も落ち着きを取り戻していますので、ⓐⓑの事情はなさそうです。また、駐車場には誰もおらず、駐車場内ですので、ⓒ現場付近の交通を妨げるおそれもおそらくないといえそうです。

そうすると、逮捕場所から約50メートルの場所に位置する駐車場は「最寄りの場所」といえても、同駐車場から約1キロメートルも離れたJ交番は、「最寄りの場所」とはいえなさそうです。少なくとも、警察車両の後部座席に乙を乗せた時点(この時点でも乙は抵抗する素振りがなかった)において捜索を実施すべきだったといえます。

類似事例として、大阪高判昭和49年11月5日があります。この裁判例では、公園南側出入口付近の歩道上においてKがAを現行犯逮捕し、その後Aを警察署に連行した上、警察署内で身体の捜索をした事案において、「Kは…公園南側出入口付近歩道上でAを逮捕したが、その時は前記赤ヘルメット集団が火炎びんを投てきした直後であって、現場が混乱しており、被告人を奪還されるおそれもあったので、これを避けるためその場では捜索差押ができなかったということは首肯されるけれども同所から被告人を連行して同公園南側の巾員約18メートルの道路を南方に向って横断した関西電力扇町営業所北側歩道上では、もはや右のような事情があったものと思料されず、同歩道上には右岡田光夫巡査のほかにも警察官が居たことが明らかであるから、同歩道上で捜索差押が不可能あるいは著しく困難であったとは認められない。また関西電力西側車道上に停車していたパトカーに被告人を同乗させた場所で被告人の所持品について捜索、差押ができなかったという合理的な理由は見当らないといわざるをえない。」として、違法と判断しています。

別にそれくらいいいやん、と思うかもしれないですが、強制処分法定主義に反するという批判があるくらいの論点でもありますから、「例外は厳格に」の思考を持ちたいところです。

以上より、下線部③の捜索は違法となります。

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