刑事訴訟法

令和7年度司法試験 刑訴(その2)設問2

Yamamoto

設問2について

理由1について

「証明力を争うための証拠」とは、328条の弾劾証拠のことを指します。そのため、検察官が証拠意見に際して付した「理由1」は、弾劾証拠に当たらないとの主張です。

弾劾証拠は、伝聞適用の適用を受けずに証拠とすることが認められるものであり、同一人の不一致供述によって証言の証明力を争う場合には、供述内容の真実性ではなく、不一致供述をしたという事実の存在自体が問題となっており、328条はこのように供述証拠を弾劾目的で非供述証拠的に利用する場合には伝聞法則が適用されないことを注意的に規定したものと考えられています。

一方で、別人の不一致供述によって証言の証明力を争う場合には、供述内容の真実性を度外視して信用性を弾劾することはできないため、伝聞法則の適用を受けると考えられます。

最判平成18年11月7日【百選87(第11版)】も、『刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであ[る]』と述べています。

したがって、「証明力を争うための証拠」といえるためには、同一人の不一致供述(自己矛盾供述)である必要があります。そうすると、〔証拠1〕は、丙ではない乙の供述であって、同一人の不一致供述(自己矛盾供述)ではないことから、検察官の異議には理由があるといえます。

理由2について

理由2は、316条の32の「やむを得ない事由」はないとの主張です。

316条の32が「やむを得ない事由」がない限り、公判前整理手続終了後の証拠調べ請求を禁止するのは、公判前整理手続における争点・証拠の整理の実効性が損なわれることを防止する点にあります。

もっとも、弾劾証拠は、「やむを得ない事由」のいわば典型例とされることが多いです。すなわち、公判手続において提出しようとする証拠(供述録取書など)が弾劾証拠として利用することが可能になったのは、公判における証人尋問において、その供述録取書とは異なる証言が行われた時点であるといえ、公判前整理手続において証拠請求することが期待できないといえるからです。

ただ、本問において悩ましいのは、甲の弁護人Tは、公判前整理手続において、既に証拠②③の開示を受けていたことから、公判前整理手続段階において証拠②を証拠請求する機会があったとして、「やむを得ない事由」はないのではないか、という問題意識です。

細かめの論点ですので、これを押さえていなかった受験生は多くなかったのではないかと思います。

さて、この論点に関し、上記問題意識を強調し、公判前整理手続において開示されていた証拠の中で、既に捜査段階で自己矛盾供述が存在していた場合には、「やむを得ない事由」はないとして、証拠請求を否定する立場(否定説)があります。

否定説は、自己矛盾供述の存在等の補助事実についても、公判前整理手続において証拠整理しておくべきとの理解に立つものといえます。

一方で、名古屋高裁金沢支判平成20年6月5日【百選58(第11版)】を含め、学説の多数説は、肯定説に立ちます。刑事裁判においては、伝聞法則の趣旨に鑑みても、捜査段階における供述(供述録取書)より、公判廷における供述が重視されます。そうすると、このようにもっとも重視されるべき公判廷での証言が行われたことで、その証言との関係で、捜査段階における供述が、公判証言を弾劾する自己矛盾供述に当たることが明らかになったといえます。このように考えると、「やむを得ない事由」があるとして、肯定説が妥当と考えられます。

なお、肯定説に立った場合には、否定説が持つ問題意識については、証拠調べの必要性の問題として対処可能といえます。証人が主尋問や反対尋問において、捜査段階における矛盾供述の存在を認めるとともに、その理由について供述している場合などにおいては、その後における弾劾証拠の証拠請求が重複立証に当たるとして、証拠調べの必要性に欠け、証拠請求を却下することが可能です。

以上のとおり、否定説に立つと、検察官が付した理由2は妥当といえますが、肯定説に立つと、検察官が付した理由2は妥当といえず、「やむを得ない事由」があるとして、[証拠2]の証拠調べ請求は認められることになります。

なお、肯定説に立った場合、証拠調べの必要性の問題が残ります。ただ、本問では、丙の証人尋問において、捜査段階における供述(証拠2)に関し、丙は、「そのような供述をした記憶はない。覚えていない。」などの証言に終始しており、自己矛盾供述の存在が明らかになっていないといえますので、[証拠2]につき、証拠調べの必要性も肯定できるといえます。

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